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小太郎愛サイト「ロマネスク」の管理人・のち子さまに清三小説を頂きました!
皆様にも幸せのおすそわけです。

のち子さま、本当にありがとうございました!


のち子さまのサイトはこちらです。


※清三での活動はなさっていません。なんかの罰ゲームで半ば無理やり書いてもらいました。のち子ありがとう愛してる




石田三成を、暗殺する。

誰が言い出したことなのか、そんなことは、覚えていない。
恐らく、誰が言い出したものでもなかっただろう。
なるべくして、そうなった。
このときがくれば、あそこにいた誰もがそう言ったはずだった。
一人はたまたま、その言葉を口にし、残りはたまたま、
それに頷いただけだった。
三成を殺す。
その言葉を言うのが俺だったとしても、不思議はない。
そして俺は、それを恐ろしいことだとも思っていない。

三成を、殺す。
友を、兄弟を、そして、

 

 

はっとして、立ち止まった。
三成が、ちらと、こちらを見た。
あの目。
今までならば、自然にこちらに向けられていたその目。
だが、それだけだった。
三成は目を逸らし、その場を離れようとする。
俺はもう、三成の前ではいないも等しい、ということか。

呼べば、もしくは、その背中を引き止めることは
できたのかも知れなかった。
振り向くのを待つことができたのかも知れなかった。
それよりも先に、駆け寄って、その小さな肩を掴んで
しまったのは、俺を認めようとしない三成に、耐え難い
ほどの憤りしか感じなかったから、だろう。
かつてはこうでなかった自分にも、また。

「上杉の風はどうだ、三成。」
三成は何も言わず、俺の手から逃れようとした。
ただ、冷たい目をこちらに向けただけ。
そこに、一つの憂いでもあったなら、俺は自らこの手を離し、
代わりに何か、何か、この二つを近づける言葉を考えることも
厭わなかっただろうに。
それが決してこの口から出ることはなかったとしても。
「悪くないだろうな。おまえを憎むものも多くない。
少なくとも、ここよりは。」
三成はまったく俺を見ず、そうだな、と、小さく呟いただけだった。
諦めだった。
ここには、自分の支えになるものはいないという諦め。

肩を掴んだ手に、力が入った。
三成が眉を顰め、唇を固く結ぶ。
その顔が、まっすぐに俺を見た。
俺を責めるような、憎むような目で。

豊臣は、いつからこんな風になってしまったのか。
あの人さえ、生きていてくれたなら。
それが無理な願いだということを分かっていながら、
俺はこの崩壊を止められない。
二つはあの日から、決して歩み寄ることをしない。
待つこともまた、できなかった。
ますます離れ、互いを罵りあうことしかできない。

三成は目を逸らし、離せ、と、呟くように言った。
「もう、おまえに話すことはない。」
ふっと、力が抜けた。
おまえは、やはり馬鹿だ。
今、そう言ってみたところで、三成はともかく、俺だって、
くすりとも笑えはしないだろう。
馬鹿が。
飽きるほどに言ったその言葉。
あのときは、それで笑いあえた。
俺も、俺よりは幾分不器用な三成も。
「俺たちはもう、あのときとは」

気がつけば、その頬を、白い頬を、幾度となく、愛をこめて
撫でた頬を、俺は腕にうなりをつけて殴ろうとした、らしかった。
三成は咄嗟のことに目を閉じ、しかしすぐに、その衝撃が
来ないことが分かると、はっとして、俺を見た。
睫毛が揺れた。
俺はまだ、これを綺麗だと思っている。
俺の手は震え、こめられた力を失わないままに、下に落ちた。

愛しい。
その気持ちは、まだ、少しも消えてはいないのに。
それなのに三成は、すぐにそれを諦めようとする。
どうしようもないと、口に出す。
俺をそれで、諦めさせようとする。遠ざけようとする。
三成は、全てを忘れてしまったか?


「取っ組み合って喧嘩をしたのは、」
三成の、こんな風に柔らかな声を聞いたのは、
一体どれほど昔のことだろう。
忘れているのは、俺の方だ。
「結局、あの一回だけだったな。」
三成が、懐かしんでそう言ったのを、俺は、俯いたまま聞いていた。
「体中あざだらけになって、おねね様には、あとで随分叱られた。」

喧嘩の理由など、覚えていない。
きっと、つまらないことだったのだろう。
だが、俺も三成も、お互い引くことをしなかった。
歩み寄ろうとしなかった。

傷付けたと分かったときに、俺はそれを、ひどく悔いた。
もう二度と、こんなことはしたくないと思った。
もし、戻れなくなったとき、俺たちは互いに歩み寄る術を
知らなかったから。

「仲が良いから喧嘩をするのです、と、俺は言い訳しただろう。」
三成が、俺の手を取った。
たった一度、三成を殴り倒したこの右手を。
二度としまいと誓った右手を。
「あれは違うな。仲違いをさせるのも、また、」

ああ、もう、昔には戻れない。
俺はこの手で、三成を傷付けなければならない。
誓いを破らねばならない。
二度と傷つけまいと誓った三成を、この手で、

三成は、握られたままの俺の拳を持ち上げて、
自らの額に、とん、とそれを押し付けた。
そして小さく、笑ってみせる。
寂しそうな目で。憂いに満ちた目で。
「この顔を殴ることすらできないで、命が取れるか。」

後悔。だが、進むしかないこともまた、分かっている。
俺は三成の細い体を、到底、殴り合いだけでは
勝てそうもない体を抱きしめて、口付けた。
慣れた体と、慣れた唇。
俺はこれを、自ら手放さねばならない。
俺はそれを、自ら選んだのだから。

唇を離し、その目を見た。
その目もまた、俺を見る。
責めるように、だが、包むように。


「馬鹿、が。」
これは、こんなに悲しい言葉だっただろうか。
「この方が、殴られるよりもずっと痛い。」

三成が、笑う。
もう二度と、この顔を見ることはない。
二度と、二度と、

**********

想い合いながら分かたれてしまった二つの道を、振り返りながら、悔やみながらも、戻ることはなく突き進む二人の姿が美しい。胸が締め付けられるような清正と三成の二人を本当にありがとうございました。

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